更新日:2021年7月28日
船の守護神
海に生きる漁師や船乗りは、航海安全を祈って船霊様(ふなだまさま)という船の守護神を信仰してきました。その信仰は古く、奈良時代の歴史が書かれた「続日本紀」(しょくにほんぎ)の天平宝字(てんぴょうほうじ)7年(西暦763年)の8月の条に「船が高麗(こうらい)から帰国途中に暴風雨に遭い、船霊に祈願したところ無事に帰国できた」と書かれています。
船霊様は、災難を予知して知らせるといわれています。予知して知らせることを福岡では「しげる(しゅげる)」といい、「船霊様がしゅげらっしゃる」という使い方をします。博多祝い唄にある「枝も栄ゆりゃ葉もしげる」と同じで、活発に動く様子を表す言葉です。
全国の地域によっては「いさむ」「さえずる」というところもあります。「筑前鐘崎漁業誌」では「『リン・リン・リン・リン』もしくは『チ・チ・チ・チ』と虫や小鳥の鳴き声に似た澄んだ音が聞こえ、船の右から聞こえるので右をのぞくと左から聞こえ、左をのぞくと右から聞こえ、二人が同時に両側をのぞくと船首(せんしゅ)の方向から聞こえてくる。いくら探しても姿は見えなかった」と書かれています。
船に取り付けた船霊様が音を発するのではなく、船の外から聞こえてきたという感じなのでしょう。これは木造船時代の話であり、現代の船になってからは聞こえなくなったといわれています。
一般的な船霊様
日本で一般的な船霊様の形には、祠(ほこら)のような家形のタイプ(写真1)があります。中をくり抜き、その中には、男女の紙人形、サイコロ2つ、穴あき銭などを御神体(ごしんたい)として入れ、ふたをします。これらの御神体をなぜ入れるかという理由は、地域によって異なりますが、男女の紙人形は、災難が起こったとき身代わりのために入れるという地域があります。サイコロには「天一地六(てんちじろく)」「表三合わせ(おもてみあわせ)」「艫四合わせ(ともしあわせ)」という置き方があり、「幸せ」など縁起の良い語呂があることから、そのように置かれるようです。穴あき銭は12枚納め、1年(12カ月)を表すといわれ、閏年(うるうどし)には13枚納めます。
木造船の時代は、船の中心部にあたる帆を立てる場所を長方形にくり抜き、そこに船霊様をはめこんでいました。現代の船では、操縦室の正面や神棚に取り付けることが多いようです。
宗像沿岸の船霊様
宗像沿岸の船霊様は、「カザリ」という彫り込みがされ、帆柱を入れる筒を固定する「筒挟み(つつばさみ)」という部品であったことから「ツバサミ」とも呼ばれます(写真2)。
このタイプは全国的に珍しく鐘崎、大島を中心に遠賀郡芦屋、糟屋郡新宮などに点在します。
特徴的なのは、人形などの御神体を入れず、その代わりに御神入れ(ごしんいれ)という儀式をすることです。造船での儀式で、船霊ごめともいわれます。
まず船大工が、木で写真2のような形を作ります。この段階では、船霊様は宿っていません。船の進水式の前夜、左右にノミで×印の刻みを入れることで、船霊様が宿った御神体となります。
海の道むなかた館では、大陸と交流した宗像人の歴史を学ぶことができます。今回紹介した船霊様も展示していますので、ぜひ、来てください。
注:参考文献は楠本正1993「玄界の漁撈(ぎょろう)民俗」
(文化財職員・氏原知行)
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